九州大学先導物質化学研究所林研究室

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概要

低温・迅速ガス化を実現する反応器、反応操作法開発

ガス化の本質的な機能は,異種の炭素資源(化学エネルギー)と熱エネルギーを合成ガスの化学エネルギーに集約・統合することですが,それ故に化学エネルギーの損失を最小化することが望まれ,そのためにはガス化温度(正確には,反応系出口における合成ガス温度)を可能な限り低くする必要があります.林研究室では,熱分解とこれに続く揮発成分の水蒸気・酸素改質、チャーの水蒸気ガス化に関する研究から得た知見に基づき,「熱分解と改質・ガス化の分離」,「揮発成分とチャーの相互作用(接触)の強化と排除」,「熱の化学再生」,「チャー表面~気相間を移動するカリウム触媒の適用」などの概念に基づく新しいガス化反応系を開発しています.これまでに,バイオマスについては,700℃における揮発成分とチャー完全改質・ガス化,反応系出口温度<300℃以下を達成し,断熱反応系の場合の冷ガス効率>96%が可能であることを示しました。褐炭のガス化についても同様の成果を得ることができました。低温ガス化では,通常,残留タールの濃度が高く深刻な問題となりますが,開発したシステムはタールの除去率99%以上を実現します.

研究内容 研究内容

Adv Powder Technol 31 (2020) 867, Applied Energy 233-234 (2019) 156, Energy Fuels 30 (2016) 1616, Energy Fuels 28 (2014) 6407, Energy Fuels 28 (2013) 4, Energy Fuels 26 (2012) 199

チャーガス化のモデリング・反応速度解析

研究内容

灰分金属による触媒作用に支配されるバイオマスや褐炭チャーのガス化反応速度を従来の粒子比表面積に基づくモデルで表現することは困難であるとの見地から,非触媒的なガス化(一次反応)と触媒的なガス化(ゼロ次反応)が並列的に進行する新たなチャーガス化モデルを提案し,触媒金属種の組成・含有量や物理化学的な構造からあらゆるチャーのガス化反応速度を予測可能とするモデル・解析手法の開発を目指した研究を行っています.反応速度解析結果からは,複雑でこれまでに理解が十分でないガス化触媒金属種の活性化・不活性化・触媒作用のメカニズムも明らかになります.

Energy Fuels 34 (2020) 225, Energy Fuels 33 (2019) 5996, Energy Fuels 32 (2018) 4255, Energy Fuels 30 (2016) 1636, Energy Fuels 28 (2014) 6407

バイオマスからの有用化合物製造

化石資源の枯渇はエネルギーのみならず化成品原料の問題でもあります.いずれ化石資源がなくなることを想定し,かつ環境問題も考慮し,唯一の豊富な代替資源であるバイオマスから多様な化成品をつくる技術を開発しておくことは人類にとって重要です.林研究室では,可能な限り有機溶剤を使用しない環境にやさしいバイオマスからの有用化合物製造法に関する様々な研究を行っています. 例えば,バイオマス主要構成成分のひとつであるセルロースについて,従来の酵素糖化を起点とする化学原料化手法と比べ,はるかに迅速で溶剤や触媒を必要としない熱分解を起点とした変換化学の開拓を目指した研究を行っています.熱分解揮発性生成物を触媒改質して高収率でレボグルコセノンを製造することに成功し,さらに,レボグルコセノンを原料とするいくつかの新たなバイオマス由来化合物の合成にも成功しています.同じく主要構成成分であるリグニンは芳香環を豊富に含む巨大分子ですが,化学構造的特性からこれを選択的にモノマーまで分解して化学原料化することは困難とされてきました.これに対し我々は,リグニンを事前に酸化改質したのちに触媒を用いて水素化分解する手法を開発し,極めて高い収率でリグニンモノマーを回収できることを示しています.

研究内容 研究内容

Energy Fuels 34 (2020) 7183, ACS Sustainable Chem Eng 7 (2019) 5892, Eur J Org Chem (2018) 2028, Green Chem 19 (2017) 2636, ACS Sustainable Chem Eng 5 (2017) 1132, Energy Fuels 28 (2014) 76

低品位炭素資源を原料とする高強度コークス製造

研究内容

製鉄に欠かすことのできないコークスは高品位な石炭である原料炭からつくられています.原料炭の埋蔵量は減少し続ける一方,需要は急速に高まっており,今後は,これまでに利用されてこなかった低品位炭(褐炭など)をコークス原料化することが望まれます.しかしながら,褐炭は従来のコークス製造法で求められる軟化溶融性をもちません.この褐炭利用の解決手段として,林研究室では熱間加圧成型・炭化法によるコークス製造技術を開発しました.本手法により従来品と比べてもはるかに高い強度のコークスを製造できることを示しており,実用化に向けて,高強度コークス形成メカニズムの解明,石炭事前前処理によるコークス強度の向上,原料石炭種の多様化,などの観点から研究を行っています.

ISIJ Int 59 (2019) 1440, ISIJ Int 59 (2019) 1449, Energy Fuels 32 (2018) 4364, ISIJ Int 55 (2015) 765, ISIJ Int 54 (2014) 2461, Energy Fuels 27 (2013) 6607, Energy Fuels 26 (2012) 296

CO2排出量大幅削減に資する電力・化成品コプロダクションプロセス

我が国はCO2排出削減の目標として2050年までに現状の80%に低減することを掲げています.この困難な目標に立ち向かうべく,さらにその先にある炭素循環社会を実現するための技術として,我々は,炭素資源(化石資源,バイオマス)を利用しつつも,これを一切燃焼せず,しかも自立的に転換し,電力,化成品および地上で安全に貯留可能な二次炭素資源に転換するコプロダクションシステムを提案しています.その実現に向け,CO2排出量削減に与えるインパクトの試算,プロセスシミュレーション,要素技術の開発などを行っています

研究内容

新奇な自律型リアクターシステムの開発

研究内容

近年では、光センサー等の計測器やマイコン等の計算機が著しく高機能化・廉価化しています。これらを化学実験・研究の場に新たな形で組み込み、これまでにない形で反応を実施・解析できる技術の開発を行っています。開発した装置を活用して、有機合成反応の最適化や微粒子の高機能化などを行っています。関連する内容として、マイクロリアクターの性能評価等も行っています

Scientific Reports 10 (2020) 7685, Langmuir 35 (2019) 2236, Org Proc Res Dev 23 (2019) 807

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